裾野拡大から飛躍と社会的インパクトへ、福岡市とフォースタートアップスの挑戦

2024-05-30
Executive Interview
裾野拡大から飛躍と社会的インパクトへ、福岡市とフォースタートアップスの挑戦

社内カンパニーを経て、2016年9月に創業したフォースタートアップス株式会社。「for Startups」というビジョンのもと、国内有力VCとの連携による起業支援や、スタートアップ企業の組織構築を含めた人材支援を中核に、戦略的資金支援も行うハイブリッドキャピタルとして成長産業支援事業を展開してきました。2020年にはパブリック・アフェアーズ部門を創設し、産官学民連携のスタートアップ支援事業にも注力しています。このほど福岡市の「福岡市スタートアップ支援施設運営事業」事業者に採択され、2024年度より福岡市の官民共働型スタートアップ支援施設「Fukuoka Growth Next」(FGN)の運営に参画することになりました。

福岡市は2012年に「スタートアップ都市ふくおか」を宣言し、スタートアップ支援を市政の柱として位置づけ、創業の裾野拡大に取り組んできました。FGNはその施策の中核で、育成プログラムの提供やグローバルアクセラレーターとの連携、資金調達サポートなどの支援を提供。今後は創業の裾野拡大に加え、「高さ」を追求し、世界に飛躍するスタートアップの育成を目指します。その切り札として新たに参画したのがフォースタートアップス。人材、資金など全方位的に支援し、ともに高みを目指していきます。福岡市の高島宗一郎市長とフォースタートアップス代表取締役の志水雄一郎に決意と展望を聞きました。

福岡市長
高島 宗一郎 氏

フォースタートアップス株式会社
代表取締役社長
志水 雄一郎

スタートアップを地方都市躍進の起爆剤に
2012年から本格的に支援を開始

——高島市長はなぜ、早い時期からスタートアップ支援が必要だと考えのでしょうか。

高島市長:
私は団塊ジュニアの世代で、小さい頃は家電製品も商社も「ジャパン アズ ナンバーワン」でした。それがどんどん日本の勢いが弱まってくるなかで、「リスクを取ってチャレンジする人が尊敬されるような日本にしたい。そのために、まずは福岡から行動しよう」。そう思いました。これがベースにある思いです。ただ開業率を上げればいいのではなく、もっとみんながリスクを取ってチャレンジして、それをみんなが応援していくような社会をつくりたいと考えました。

具体的な方法として、スタートアップに着目したのは2011年。シアトルに行ったことがきっかけです。マイクロソフト、アマゾン、コストコ、スターバックスコーヒー、ボーイング。このようなグローバル企業が、なぜシアトルから生まれるのかと考えました。日本だったら東京一極集中となるはずです。地方でグローバル企業が本社を置いてチャレンジできているのは、コストが安く、働く場所と住むところがくっきり分かれ、リフレッシュできる環境もあるからだと思いました。

地方の強みが、出張で行って楽しいとか、リフレッシュに行って楽しいとかだけではなく、ビジネスでの強みにもなる。シアトルで、この二つをブリッジするものがスタートアップだと発見しました。福岡もまさに出張や観光で行って楽しい街。それを、「ビジネスで行って楽しい街」にもするブリッジです。

ちょうどその年の秋、福岡でテクノロジーとクリエイティブの祭典『明星和楽』が開催され、多くのプレイヤーが集結していました。機運は高まりつつあり、2012年に福岡にゆかりのある孫泰蔵さん、小笠原治さんなどの起業家・投資家とともに「スタートアップ都市ふくおか」を宣言しました。そこからスタートしています。

——これまでの福岡市の歩み、取り組みを教えてください。

高島市長:
人も資金も販路も、あらゆる部分で充実している東京に対して、地方は基本的に足りないものだらけです。一方で、地方には地方ならではの資源や課題があり、社会課題解決の取り組みをするには決して悪くない場所です。では、地方に足りていないものは何だろうか。その答えをどんどん埋めていったのが、これまでの12年間の取り組みの数々です。

まず、従来の法や規制が想定していない新しいビジネスモデル、テクノロジーに対応するために、2014年に「福岡市グローバル創業・雇用創出特区」として国家戦略特区を獲得しました。柔軟で新しいビジネスを日本で展開できるように、まずは福岡から風穴を開けていこうと考えたのです。細かな取り組みとしては、例えば市役所より相談しやすい窓口をつくろうと「スタートアップカフェ」を始め、スタートアップを支えるエンジニアを育成するために、「エンジニアカフェ」という場所づくりもしました。

2017年には、旧大名小学校の校舎を活用して官民共働型のスタートアップ支援施設「Fukuoka Growth Next(以下、FGN)」をオープン。市のスタートアップ支援施策の中心に位置づけてきました。

日本全国に強いスタートアップが必要
起爆剤としての福岡に期待

——志水さんにとっては故郷でもある福岡。この頃、志水さんとフォースタートアップスはどのような活動をしていましたか。

志水:
そもそも私は福岡で生まれ育ち、FGNとなる前の大名小学校に通いました。中学、高校の同級生には起業家の孫泰蔵と堀江貴文がいます。同じ学校、同じクラスでともに過ごしました。

早くから挑戦していた彼らの姿は輝かしく、一時期、見ないようにしていたこともありました。20代から30代の頃で、その頃の私は転職サイト『DODA』ブランドを立ち上げ、リクルートに対抗するビジネスをつくろうとしていました。当時、いわゆるHR業界で、いちばんのお客様は大企業や外資系のコンサルティングファームで、スタートアップはお客様ですらない。なぜならビジネスとしてお金にならないからです。でも、これは間違いではないかと思うようになりました。40歳の頃です。

理由は、国内外の大企業に日本の重要な人的支援をご紹介しているのに、日本の成長は逆行しているから。優秀な人的支援を古きよき場所に集中させても、よりよい未来は獲得できていないことに気付きました。では、どうしたらいいかと考えたとき、まさに先ほど高島市長がおっしゃったように、より多くの挑戦者を生まなければならない。リーダーシップを持った人たちがかつての日本のように、この時代のトヨタやホンダ、ソニー、パナソニックとなり得る企業を自らつくりだし、社会課題や未来課題の解決のためにそこに人を集わせ、新たなビジネスモデルと今の時代に合った編成で戦える組織をつくる必要がある。そうして世の中に競争を生まなくてはいけないと思い至りました。

挑戦者を次の日本の競争力や未来のために、日本から世界にイノベーションを起こせる役回りにどう昇華させていくか。それを自分がやるべきではないかと思ったのが12年前。福岡がスタートアップ都市として歩み始めた頃です。2013年に前身となるチームを立ち上げ、2018年から今の社名、”フォースタートアップス”に変更してより幅広く、本格的にスタートアップ支援を展開し始めました。今、フォースタートアップスは実績を積み重ねて、国内最大級のスタートアップ支援企業に成長しましたが、きっかけはその12年前の気づきです。

同級生の孫泰蔵も堀江貴文も、世界に目を向ければイーロン・マスクやマーク・ザッカーバーグ、サム・アルトマンも、少し前にはできないと思っていた想像の世界を、人の力を集結することで実現しています。つまり、人には可能性がある。可能性しかない。でも、ほとんどの人がその可能性を知りません。一人でも多くの人たちに、仲間を集わせればできるんだと伝えて、やり方がわからないのなら、日本中、世界中から助けになる人を連れてくる。私たちのまわりには、エコシステムビルダーの方たちがたくさんいます。そのような人たちを結びつけ、次の日本の競争力となる企業を生み出すサポートをする。この一心でフォースタートアップスは生まれ、活動してきました。

——スタートアップをめぐり、志水さんの目に見えている景色、課題などを教えてください。

志水:
私たちは、『STARTUP DB(スタートアップデータベース)』という日本のプレIPO企業のデータベースを持っています。資金調達市場、人の動きなどのデータをすべて可視化したもので、そこから明らかになったのは日本とアメリカの労働人口の違いです。アメリカは雇用の半分が新産業側です。突出したタレントなど人の力が成長の源泉で、採用するため、雇用を維持するために賃金を上げていきます。これこそが構造的な賃上げです。

一方で、今の日本の賃上げは一過性のものだと私は思っています。持続するには、強い新産業が生まれ、競争の中で賃上げが起こる構造が必要です。しかし、日本全体で見ると、スタートアップ側の雇用はわずか1.3%。地域差があって、東京は8%ですが、2位の大阪は1%。福岡は神奈川や愛知とともに3位で0.5%前後です。低いですね。これを引き上げるには、新産業側がみんなで火をつけることも大事ですが、火をつけた後、それが燃えたぎっていく構造にしていかなくてはなりません。そうすると雇用につながり、国の税収に連動します。ということは、本当に強いスタートアップ群は東京からだけではなく、日本全国から生まれることがとても重要です。

特に福岡。九州全域から優秀層の若手が集まる場所です。ならばこの場所に、強い新産業が生まれる構造づくりができたら勝てる可能性がある。そしてここが代表的な場所となれば、ほかの自治体も真似をして全国に広がっていくでしょう。そのような起爆剤となる場所ができるといいと思い、ご一緒させていただいています。

「高さ」と「ソーシャル」がキーワード
スタートアップ支援は次のフェーズへ

——スタートアップ都市宣言から12年。どのような成果がありましたか。

高島市長:
福岡市のスタートアップは確実に成長しており、例えばQPS研究所が2023年12月に上場したほか、IPO予備軍も多く控えています。スタートアップの裾野拡大を目指して様々な支援を展開し、一定の成果を出してきました。ただし今は、私たちは「高さを出す」と表現しているのですが、より高みを目指し、福岡市のスタートアップエコシステムを代表し、けん引する企業の創出を目指すフェーズに変わってきています。

そして、もう一本の柱に加わったのが「ソーシャル」。社会課題解決型スタートアップです。これまではシリコンバレー型の「高さ」を、ユニコーンを目指してやってきました。今後は、これまで通り「高さ」を目指せるスタートアップをさらに誕生させていくと同時に、「ソーシャル」型のスタートアップの支援にも力を入れていく必要があります。

実際、FGNに集うチャレンジャーたちと向き合うなかで、バリュエーションを上げることだけではなく、そこに社会的意義や自分の人生を見出す人が増えてきたという実感があります。福岡市がこれまでやってきた「実証実験フルサポート事業」も、まさに市が直面している課題を提示し、それを解決するビジネスモデルを持つ方たちと官民連携で解決に臨むというもの。こうやって続けてきたことがここでつながりました。

福岡の特徴としてソーシャルスタートアップが多く、社会から求められていることを感じますし、社会の風潮も、テクノロジーがもてはやされた時代から、今はインパクト重視へと変わってきています。その事業はどのような価値を生むのか、社会にどのようなインパクトを出せるのかという点が、グローバルでも重要な指標になってきている感触を持っています。

——ソーシャルスタートアップへの理解、もっと言えば資金調達に課題はないのでしょうか。

高島市長:
そうですね。行政の力だけでは解決できない、むしろ民間の力を活用すべき社会課題を、スタートアップの力を借りて、ビジネスと両立しながら持続的に解決していくことを期待しているのですが、いかに資金を集めるかという点では課題があります。

そこで今回、新たにふるさと納税を活用して資金面で支援するという取り組みを始めました。ソーシャルインパクト型のスタートアップのビジネスモデル確立と、軌道に乗るまでを資金面でサポートするものです。対象企業として10社程度募集したのですが、30社を越える応募があり、これから内容を精査して選定していくところです。人生を賭けて何を成すか。社会にどのような価値を提供していくか。こう考える人が、若い人を含めてすごく増えてきています。

志水:バリュエーション一点主義のスタートアップ群もありますし、投資家がつくなら、そのストーリーもあっていい。ただ、確かに本来は人や社会、未来とどう共生するか、といった部分がものすごく重要なテーマになると思います。

福岡のスタートアップがどこを目指すかという点は、私は九州ナンバーワンでもいいし、日本ナンバーワンでも、アジアナンバーワンでもいいと思います。どれも目指せるし、我々はどんなストーリーでもサポートします。そのようなスタートアップ支援体制を福岡市とともに提供できたら、多様な価値観と多様な狙いを持ってみんなが動けるようになるのではないかと思っています。

課題は圧倒的に「人材」 
フォースタートアップスの全方位的支援に期待

——高さとソーシャルの二本柱と構想は広がりますが、実現に向けて直近の課題は何でしょうか。

高島市長:
圧倒的に人材です。福岡もスタートアップ支援を始めて10年以上経ち、IPOも出ましたし、IPO目前の企業も増えています。ところがその段階まで来ると、東京に行かないと金融機関から上場に向けたアドバイスをもらうことが難しく、実際、みんな東京に行ってしまいます。地元で相談に乗れる人材を探すのが難しいのです。このフェーズに来たからこその新たな課題です。なので、今はフェーズや状況に応じた人材マッチングの機能が切実に必要で、フォースタートアップスにとても期待しているところです。

志水:ありがとうございます。私は強いスタートアップが生まれ続けるために重要なことは、スタートアップ支援の産業化だと思っています。いくつかのプレーヤーが支援しているだけでは駄目で、スタートアップ支援サービス「業」となって、支援側にも競争が生まれる必要があります。ここがしっかりと強い人材とキャピタルを集めきって、安定的、継続的な成長をしていかない限り、恐らく日本の全体のスタートアップの生態系が太くならないと思うのです。

産業化のためのイニシアチブは、我々が絶対に取ろうと決意しています。といってもまだ200名規模の会社。東京だけでなく様々な自治体へ、さらにはグローバルにも広げながら、一つでも多くの成功事例をつくれる産業化、インフラ化するための役まわりを絶対に果たす覚悟でいます。その一環で、福岡市がスタートアップ都市として発展するために、一緒に取り組んでいきます。我々としても強い決意を持っています。

人材は当社のネットワークでしっかり支援し、資金調達などの成長支援も、トップティアVCとの接続で実現していきます。福岡地所様とも資本業務提携をしました。FGNだけでなく産官学を巻き込んで、福岡市のスタートアップエコシステムの発展に貢献していきたいと思います。

高島市長:課題や国に対する期待、要望などはありますか。

志水:人がスタートアップに集まる仕組み、起業する仕組みをもっと推進していくことですね。そうしなければ、せっかく集まり始めたリスクマネーが活きません。今もそうですが、これだけの株価高になると大企業が中途採用に力を入れ始めます。すると、人の流れという点でスタートアップ側に一瞬火がついたものが、また大企業へと向かってしまいます。日本の教育は今なお大企業至上主義なので、大企業側が採用に力を入れることでそちらを選択してしまう人が増え、スタートアップの火が消えてしまうのではないかと危惧しています。

なので、スタートアップに人が進む仕組みを、国としてどうサポートできるかは大変重要です。待遇面も大きな要素で、東京では、優秀な人材を確保するために思い切って給与を上げたスタートアップもありました。福岡の有力スタートアップは、まだそこまでではなく、地場の有力大企業と比較すると選択しづらいかもしれません。福岡の中だけで競っているわけではなく、日本全体、あるいはアジアからも人を引き込むために競争しているので、勇気を持ってスタートアップ群が雇用に対してお金をかけられる状況を、構造的につくっていく必要があると思います。

——2024年度から参画したFGNで、フォースタートアップスはどのような活動をしますか。

志水:
やることは明確です。私は福岡のスタートアップに対して、先ほど高島市長がおっしゃられたように、最適なサポートのできる体制をつくっていきたい。それに尽きます。優秀なキャピタリストをつけることもそうですし、九州一でも日本一でも、アジア進出でも、どんなストーリーを希望してもサポートできる存在でありたいし、それができると信じています。

——グローバル展開にも優位な立地ですね。

高島市長:
はい。グローバルには、福岡市は11カ国・地域、15のスタートアップ拠点との連携を行っています。今は特に台湾の熱量が高いですね。特に熊本に台湾積体電路製造(TSMC)が来てからは、熊本に工場を、福岡に金融機能やヘッドクォーター機能を置く動きがあります。スタートアップも福岡から行ったり来たり、また行ったりとエコシステムの動きが出てきています。やはり地理的な優位性は非常にあるので、アジアを見据えたときの拠点として、あるいははじめから、福岡から即グローバルへという展開も期待しています。

2012年以降の取り組みでは、途中に新型コロナの感染拡大などブレーキもありました。社会が平常化した今、改めてグローバルに挑戦していかなければと思っているので、そこも意識してご支援をお願いしたいと思います。

志水:ありがとうございます。人、資金、ネットワークづくり、メンタリングなど必要な機能はすべて提供していきます。地理的にも、フェーズとしてもグローバルに羽ばたくチームを生み出していけるのは福岡だと思っています。一緒に頑張りましょう。

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