支援実績

BC3/
「技術は、使われて初めて価値になる」——パランティアを経て、スペースデータCTO・北澤克樹氏が挑む“社会実装”の壁

「技術は、使われて初めて価値になる」——パランティアを経て、スペースデータCTO・北澤克樹氏が挑む“社会実装”の壁

どれだけ優れた先端技術があっても、社会の仕組みや現場の文脈に馴染まなければ価値を生まない。日本のディープテックや宇宙産業が直面する「社会実装の壁」を、私たちはどう突破すべきなのか。

‍

今回登場するのは、宇宙技術とデジタルツインを融合させ、現実世界とAIをつなぐ「フィジカルAI」の社会実装に挑む株式会社スペースデータで、CTOを務める北澤氏だ。気象庁で”官”の「管轄の壁」を経験し、米パランティアで大規模な技術導入と社会実装の手法を実践してきた同氏。

‍

彼はなぜ、外資テックの最前線から「日本の宇宙スタートアップ」という新たな挑戦の舞台を選んだのか。

‍

その決断の裏側にある北澤氏の思想と、日本独自の「技術のエコロジー」を構築するための具体的な実践論について、宇宙産業をはじめとするディープテックスタートアップの人材支援において圧倒的な実績と高い専門性を持つ、フォースタートアップスの齋藤 祐矢と共に話を訊いた。

‍

北澤 克樹(Katsushige Kitazawa)
早稲田大学で月面探査用の観測器の開発とデータ解析を研究後、新卒で気象庁に国家公務員として入庁、気象関連プロダクトの開発や、気象防災・技術政策の企画立案を推進。英国オックスフォード大学で修士号を取得後、SOMPOホールディングスにてグループのデータ戦略・人材戦略・CVCを担当。パランティア・テクノロジーズ日本法人の立ち上げメンバーとして防衛・防災の大規模プロジェクトを主導。2025年6月より株式会社スペースデータに参画。2026年3月より執行役員CTOに就任。

‍

‍

1. 社会実装追求の原点ー既存の枠組みを超える価値に気付いた気象庁時代

‍

‍

齋藤: 北澤さんは、2025年6月にスペースデータに参画され、現在はCTOとして技術と組織の舵取りをされています。パランティアという外資ビッグテックから、日本の宇宙スタートアップへの転身。この決断の根底には、北澤さんの公務員時代という非常にユニークな原体験がありますよね。

‍

北澤: はい。私の社会人としてのスタートは気象庁でした。そこでの経験が、今の「技術の社会実装」に対する意識のベースになっています。

当時、天気予報の精度は技術進化によってすごく上がっていました。これからは「雨が降る」ことよりも「雨が降ったらどうなるのか」——どこで誰が、どんなインフラが被害を受けるのか、というインパクトの予測が必要でした。

‍

齋藤: データをいかに現場のアクションに結びつけるか、という部分ですね。

‍

北澤: その通りです。日本の行政は役割分担が明確に設計されていて、気象庁が担うのは「気象の観測・予報」という基盤の部分です。

そこから先の実装や事業化といった領域は、当時の枠組みの中で推進するには構造的に難しい部分があった、ということです。

‍

齋藤: 優れた技術と知見が各省庁に蓄積されているからこそ、それを横串で社会実装まで持っていく担い手が必要になってきた、ということですね。

‍

北澤: まさにそうです。日本の良さも、課題や改善の余地も見てきたからこそ、外側からその仕組み自体を疑って、変えていける民間の立場になる方が価値があるのではないか。 そう思ったのが、私が技術を現場で機能させる道へと舵を切ったきっかけです。

‍

‍

2. パランティアで得た「現場実装」の思想——なぜ外資テックは日本市場でのローカライズに苦戦するのか

‍

‍

齋藤: 仕組みを変える力を求めて進んだ先がパランティアだったわけですね。そこでの学びはどう活きていますか。

‍

北澤: パランティアのフィロソフィーで一番活きているのは、「開発して終わりではなく、実際に現場へ導入され、ユーザーに日常的に使われて初めて価値に変わる」という考え方です。

‍

よく世の中で「ミッションドリブン」や「ユーザーのために」という言葉は使われますが、パランティアではそうではなく、顧客の現場に深く入り込み、課題の発見からシステムの設計、導入、定着までを一体で担うFDE(Forward Deployed Engineer)的な役割を6年ほど実践してきました。これが今の私の大きな資産になっています。

‍

齋藤: パランティアはまさにその「泥臭く現場に使わせるプロセス」に長けた企業でした。一方で、多くの外資テックが、優れた技術を持ちながらも日本での社会実装に苦戦する姿も見てこられたかと思います。

‍

北澤: 外資テックが日本に来ると直面する典型的な課題として、「文化的なフィッティングの不足」があると思っています。日本の組織の作りや意思決定の仕方は欧米とは全然違いますし、その業界特有の流れ、文脈、ナラティブといった深い部分に、海外の企業が入り込むのは容易ではありません。

‍

パランティアもアメリカの会社なので、日本だけに最適化して社会実装をやり切るには限界もありました。だからこそ、今スペースデータでやりたいのは、日本独自での最適な技術導入の手法を自分たちで実践し、それを横展開で共有していくような取り組みです。技術を作るだけでなく、技術を受け入れる社会的な制度や組織間の壁といった「構造そのもの」を変えるアプローチに挑戦したいと考えています。

‍

‍

3. 日本が世界に勝つための「技術のエコロジー」——GAFAを追うのをやめ、触媒となるハブを創る

‍

‍

齋藤: 次の舞台に「日本の宇宙産業」、そしてスペースデータを選ばれたのはなぜでしょうか。

‍

北澤:  根っこには、大学時代に宇宙に関わっていたこともあって「夢を諦めたくない」という個人的な想いがありました。さらに自身のキャリア戦略を考えた時に、現在のテクノロジーの「パラダイムシフト」が大きな接続点になりました。

‍

もし、これまでのスキルや経験の延長線上だけでキャリアを伸ばすなら、外資テックや事業会社での一般的なDX推進が分かりやすい選択肢でした。しかし、今の時代、これまではサイバー空間にとどまっていたAIが、空間そのものを直接認知し、ハードウェアに乗り移ってロボットやドローンを自律制御する世界——いわゆる「フィジカルAI」や「空間知能」へとテクノロジーがシフトしています。そして、宇宙こそがその物理制御の究極形です。

‍

つまり、自分がパランティアで培ってきた「データを統合し、現実世界で機能させる手法論」を、次の大きな波であるフィジカルAI、そして諦めたくなかった宇宙という領域に掛け合わせることで、自分の強みを最大限に活かせる。その最適な接続点が、スペースデータという会社でした。

‍

齋藤: 技術のトレンドと、北澤さんの培ってきた強み、そして宇宙という夢が一本の線で繋がったわけですね。ここで北澤さんが提唱されている「技術のエコロジー」とは、具体的にどういうビジョンなのでしょうか。

‍

北澤: 日本が一社でGAFAのような巨大企業を作るのは、資金力や制度の観点から非常に困難です。しかし日本には、優れたクラフトマンシップや独自の希少な技術が、大企業からスタートアップ、JAXAなど、異なる組織の中に分散して存在しています。

‍

これらをそのまま眠らせるのではなく、それらをつなぐ「ハブ」となる存在があれば、日本がチームとして外資に対抗できるんじゃないかと。

‍

技術的にも手法論的にもその中間的なハブとなり、バラバラに存在する優れた個別技術を繋ぎ合わせ、一つの「共生するシステム」として社会実装を加速させること。これが、私の描く「技術のエコロジー」のビジョンです。

‍

‍

4. PROVIDENCEは、技術と社会をどうつなぐのか——現場起点の社会実装とCTOの挑戦

‍

‍

齋藤: その「技術のエコロジー」を具体化する取り組みの一つがスペースデータの『PROVIDENCE』ですね。これは、具体的にどういう役割を持つものなのでしょうか。

‍

北澤: よく「PROVIDENCEはプラットフォーム製品なのか」と聞かれるのですが、それだけではありません。技術の進化が早すぎて社会がついていけず、このままだと誰も使わないものになってしまう。その間にある技術と社会を繋ぎ直すための、「技術基盤であり、社会実装のための活動そのもの」と定義しています。

‍

具体例として分かりやすいのが、東京消防庁様などと進めている「防災・消防」の領域です。

‍

消防の人たちは、日々あらゆる現場を想定して訓練を積んでいますが、彼らには「本番でしかリアルな経験を積めない、しかし本番での失敗は許されない」という制約があります。訓練だからといって、実際の建物に本物の火をつけるわけにはいかず、現実世界のあらゆる想定外をリアルに再現できる環境を強く欲していました。

‍

齋藤:PROVIDENCEはそうした訓練においてどう役立つのですか?

‍

北澤: PROVIDENCEでは、デジタルツインの中で現実世界を高精細に再現でき、摩擦や空気抵抗などの物理演算も組み合わせて、想定外の状況を自由に作れます。ドローンを飛ばした消火活動や、天候を荒らすシミュレーションも可能です。

‍

マレーシアの洪水をデジタルツインで再現した映像

‍

つまり、「本番でしか経験できない過酷な現実を、デジタルツインによって『守られた練習環境』として反復できるようにする」。これが提供できる価値です。

‍

【デジタルツインを構成する3つの技術レイヤー】
1. 物の形・外観:木や建物など、いかにリアルに空間を作るか。写真や3D、レーザーなど多岐にわたるデータソースを使用。
2. 現実的な挙動:摩擦や空気抵抗など、難しい物理法則をどこまでリアルタイムで再現できるか。
3. 人間の感覚・介入:人の「まぶしく感じる」「段差が多く歩けない」などの感覚・体感をいかに再現できるか。

‍

北澤:JAXAや大手企業を中心に、日本には眠っているテクノロジーが山ほどあります。それを民間のロボット企業や防災プロジェクトなどに社会実装させていきたい、というのが私の真の想いです。技術の普及、需要の創出のためには、まずユーザー側に成功体験を持ってもらうことが不可欠なので、代表的なユースケースの創出のため、まずは泥臭く現場起点で取り組んでいます。これは公務員時代に培った信念が今につながっています。警察や消防、防災など、現場で公共の安全を支えている方々への敬意が、私の中には常にあります。

‍

現在の私の組織には「CG」「ロボット」「IT/ソフトウェア」という、全く異なる文化を持つエンジニアたちがいます。この異なるカルチャーを資産化しつつ、共通のプラットフォームとして収斂、融合させていくことが、CTOとしての重要な仕事です。

‍

‍

5. 【対談】安泰なキャリアを捨て、なぜ「カオス」へ——パランティアを経て北澤氏が見出した真の挑戦

‍

‍

—— パランティアという巨大外資テックのキャリアから、当時まだ組織の形も固まっていなかった宇宙スタートアップであるスペースデータへ。一見交わらないこの二つの点を「社会実装」という共通項で繋いだのは、宇宙・ディープテック領域の支援において実績を持つフォースタートアップスのシニアヒューマンキャピタリストである齋藤 祐矢。キャリア選択のストーリーを振り返る。

‍

齋藤: 今回、北澤さんの転職をご支援させていただく中で、私の胸に深く刻まれているシーンがあります。

‍

当時、パランティアでの圧倒的な実績を持つ北澤さんであれば、外資テックの最前線に進むことも、大手企業のDXを牽引する分かりやすいキャリアを歩むこともできたはずです。しかし北澤さんは、まだ組織の形もこれからという、非常にカオスだったスペースデータを選ばれました。単なる技術へのワクワクだけでなく、その先にある社会実装の構造まで考えた意思決定をされていたのが印象的でした。

‍

北澤: 意思決定のポイントは「やってきたこと(ITやDXの延長)」を優先するか、「やりたいこと(宇宙ベンチャーに振り切る)」か、という点でした。その中でスペースデータは、宇宙をテーマにしつつもITの実践面が進んでいて、フィジカルAIという次の波も捉えている。自分の培った社会実装の手法論を持って入れる「ちょうどいい接続点」だと思えたのが決め手でした。

‍

選択にあたって齋藤さんのご支援がありがたかったのは、特定の企業を推すのではなく、それぞれの良さを中立的・客観的に伝えてくれたことです。だからこそ、選択肢を持って自分の頭で納得のいく決断ができました。

‍

齋藤: 宇宙産業は今、SpaceXをはじめとする民間企業の登場によってマーケットの窓口が民間へ広く開かれ、まさに産業化の転換期を迎えています。日本の高度経済成長期を支えた自動車産業には現在も約550万人が従事していますが、宇宙産業はまだ約9,000人(2022年時点)。日本はITビジネスでは苦戦しましたが、これからは高品質なものづくりの力を新たな産業に活かして、世界に挑む絶好のチャンスだと考えています。

‍

北澤: そうですね。宇宙産業は、物理空間とデジタルテクノロジーが融合するマーケットです。日本が元々強かったものづくりの技術に、私たちが学んできたデジタルなデータ活用やAIを掛け算することで、その価値を最大化できる。

‍

5年後になって参入者が増えてからでは、この面白いフェーズには立ち会えません。カオスな今だからこそ、足元のアクションを地道に積み上げながら、技術のエコロジーをこの国に実装していきたいと考えています。

‍

‍

聞き手:
齋藤 祐矢(Saito Yuya)
‍
フォースタートアップス株式会社 ヒューマンキャピタル本部 シニアヒューマンキャピタリスト
宇宙・ディープテック領域スペシャリスト
‍
機械設計エンジニア、素材系ベンチャーでの開発職を経て、Japan as No.1の再興という志のもと2023年にフォースタートアップス株式会社へ参画。技術的背景を活かし、入社直後から宇宙・ディープテック領域を専門として開拓し、社の支援人数を3年で10倍以上へと急拡大させる。個人での宇宙周辺領域への累計支援数は50名を超え、うち6名のCxO・執行役員クラスの決定実績を創出(2026年8月現在)。2025年にシニアヒューマンキャピタリストへ昇格、同年下半期には全社MVPを受賞。高い専門性を持つトッププレイヤーとして同領域の発展に貢献している。

- Facebook
- Linkedin‍
- 宇宙領域での過去取材記事:「地球上では熾烈な覇権争いが始まっている宇宙産業 瀬戸際にある日本を背負うキーパーソンが、超小型衛星で安全で豊かな未来を創る!」

‍

宇宙・ディープテックへのキャリアに興味がある方へ

キャリア相談はこちら