株式会社ソニックス×フォースタートアップス対談インタビュー
東京都は、5G技術及び次世代通信技術を活用した技術・サービス開発に取り組むスタートアップを、 開発プロモーターと協働して支援する「次世代通信技術活用型スタートアップ支援事業(Tokyo NEXT 5G Boosters Project)」を実施。フォースタートアップス株式会社(以下、フォースタートアップス)は、開発プロモーターという立場で参画しており、スタートアップ企業と大企業を始めとした連携事業者とのプロダクトマネジメントを実施し、協業成果を生み出しています。
今回、日本交通株式会社(以下、日本交通)、株式会社ソニックス(以下、ソニックス)、フォースタートアップスの3社協業により、ソニックスによる日本交通の外国人観光客向けの観光タクシー内に観光動画を配信するサービスを開発。将来的には、観光地に近づくと自動で観光案内がストリーミングされ、AIによる自動音声案内が流れるという、車内での観光体験を見据えたプロダクトを予定しています。
ソニックスの折口茜(事業企画グループマネージャー)、フォースタートアップスの白井脩造(オープンイノベーション本部 パブリックアフェアーズディビジョン)による対談インタビューを実施。サービスのアイデアから、実際の開発・実証実験で分かったことなど、現場での紆余曲折を語ります。
“車内をパーソナライズ”することで、観光タクシーをさらに快適に

――本サービスのアイデアはどの様な事から生まれたのでしょうか?
ソニックス・折口(以下、折口):弊社社長の吉澤武則(以下、吉澤)が、将来的に「車はどんどんパーソナライズされた空間になっていく」という考えを持っていて、タクシーも例外では無く、走行中にパーソナライズした情報が出て来る世界になっていくのではないかと予想しています。
弊社は、日本交通様のお子様向け送迎サービス『キッズタクシー』の開発支援もさせていただいており、そのようなご縁の中で、車内をパーソナライズしていくというアイデアを観光タクシーの取り組みで活かせないかというお話が出てきました。そこで「日本交通様とご一緒出来たら」というアイデアを白井さんにお話し、すごく良いと言ってくださり動き始めました。日本交通様もとても快く協力してくださっています。
白井:日本交通様という日本のタクシー会社最大手で、東京都の観光を支えていらっしゃる企業さんとご一緒出来ることは大きなインパクトとなるだろうなと感じました。そこから、ディスカッションを重ねる中でアイデアとして出てきたのが、「インバウンド向けの観光サービス」というキーワードで。そこから具体的に進んでいきました。
折口:観光タクシーは、時間制で専門知識をもった乗務員さんがガイドも務めながら、タクシーの柔軟な移動で観光スポットを回れるサービスです。その際に車内に置いたタブレットにその人向けの情報が出るととても便利だろうなと。さらにタクシーを予約した時点で、どこの国から来た方か、どんなものが好きなのかという情報が分かっていれば、さらに細かな情報を提供出来る。そういった構想のもとにこのプロトタイプを作成しています。
白井:日本交通様の観光タクシーは今42台で運用されているのですが、まず一つの課題が英語人材の少なさです。研修で頑張っていただくか、AI翻訳機を使用しているのですが、なかなかコミュニケーション量が増えていない現状があります。例えば日本人同士だと、「この街ですと、ここがオススメですよ」とか、会話の中で「このお客様がこういうことに興味があるな」と思ったらその情報をお伝えするなど、カスタマイズしてご案内しているそうなのです。それをサポートするような機能があったら良いなと考えました。
スマートな情報表示と観光マップの様なワクワク感の両立
――タクシーで通過する際にその場所の情報を知ることが出来る、プラスαのサービスが素敵ですよね。
白井:単なる「移動目的」から「移動体験」へというメッセージを届けたいと思っているのですが、自動車の成り立ち自体が走れば良いというものから、快適なシートや空間作りなどに変化していますよね。同じ様に広告や観光情報もパーソナライズされた形になってくるだろうという世界をソニックス様も思い描いていて。

折口:東京駅からスタートして、皇居、六本木、明治神宮と、いわゆる観光客の方がよく回られる王道コースというものがあって、プロトタイプはこの王道コースを軸にして作成しています。皇居の500m以内に入ったら、自動的に1分ほどの皇居の説明動画が流れます。さらに近隣情報や写真なども見ることが出来て観光マップの様なテイストをイメージしています。
白井:地図上で観光地の情報を知ることで、そこに行きたくなるという、乗車している時間自体が観光体験になると良いなと思っています。海外の観光客の方は、InstagramなどのSNSで観光情報を知り、「こんな写真が撮りたい」という希望を持っていますが、情報と共に写真を流すことでその場所に行く動機づけにもなると思います。
――地図自体のデザインや映像からは旅行のワクワク感が感じられますね。
折口:今回は、ソニックスで地図上に写真アイコンなどを配置する専用のPOI(Point of Interest)を作成し、それを「HERE Technologies」様のHERE Map上に表現しています。また、写真や雑誌風の色合いを表現したカスタムマップをHERE SDKを用いて作成し、直感的にわかりやすい地図UIを実現しました。観光地によく置いてあるイラストマップの様な、観光雑誌の様なワクワク感を大切にしたいなと考えました。
白井:とても感覚的なマップになっているので、映像や写真を見ながら、言語を介さずにも車内でコミュニケーションをとれることも良いですよね。
折口:東京都産業労働局観光部が提供している写真・動画素材のほか、明治神宮など一部のスポットについては弊社で実際に撮影を行っています。ドローンで撮影した上空からのダイナミックな写真も印象的ですが、実際に人の目線で撮った写真のほうが実際に現地で感じる体験に近くてより共感を呼びますよね。日本交通様にも、弊社が撮影したリアルな写真も良いですねと言っていただきました。
白井:ガイドブックよりも Instagramが“ウケる”という感覚に違いですよね。僕も各スポットの紹介を拝見した時に明治神宮の写真が一番好きでした。これは今後のアイデアですが、YouTubeにたくさんアップされている旅行のHowTo動画を日本交通様に選定してもらい、タブレット上で流すということも便利だなと思っています。
スタートアップ企業だからこそ出来る技術力と5G

――情報をスムーズに表示させるには通信環境が大きく影響してくると思いますが、5Gだからこそ可能な事業であると言えますよね。
白井:5G は動画など大容量通信に向いていますので、この様なサービスには適していますよね。
折口:基本的にこの1分ぐらいの動画であれば、スムーズな配信が可能です。
白井:実証実験中に時々4G通信に入ってしまうことがあったのですが、そうなると時々止まってしまう。5Gを活用した次世代サービスの開発という面でもピッタリの新規事業であると思います。
――今後解決していきたい課題点はありますか?
白井:実証実験でも意見が出たのが、所要時間を予想して、どういうスピードで情報を流していくのかということは調整が必要だと思います。例えば、3時間コースで予約をしてルートを回る中で、東京タワーに1時間半使ってしまうというお客様もいるそうです。自分たちでも、予想以上に長居してしまうことってありますよね。そういう時にルートを短縮するとか、選んだ場所をパスするなどカスタマイズ出来る様にしたいなと。
折口: 実証実験では、どういうやり方が1番良いのかということを、走行中にもアイデアを出しながらメモをとっていきました。プロトタイプでは、例えば東京駅から六本木までの最適ルートを計算して自動的に引いていますが、実際に乗務員さんが走る際は土地勘を活かして臨機応変にルートを選ぶことも多いですよね。そうしたタクシーならではの柔軟さを活かしつつ、どのようにテクノロジーと組み合わせていくかは今後の考えるべきポイントだと思っています。
おもてなしの精神が体現された観光タクシーの実現に向けて
――将来的な展望を教えてください。
白井:例えば、アイデアの発端が、パーソナライズされた車内環境の提供ですので、お客様の好みに合わせてお土産のレコメンドや流れている音楽も変える…ということも出来るかもしれません。 実証実験等で乗務員さんたちにお話を伺うと「日本の観光客の方も喜びそう」と言ってくださるんですね。東京タワーだけに行く予定だったけれども、タブレットに楽しそうな情報が出てきたからそこにも行ってみようという行動を広げるきっかけにもなりますし、もしかしたら日本語版がリリースされるということもあるかもしれないですね。
折口:歴史好きの人用のパッケージとか、お子様向けパッケージとか、自動的にルートを提示して、そこから「ここに行きたい」「ここはパスしよう」と選んで自分だけのマップを作っていくというのも楽しいですよね。
白井:実際に運用がスタートした後、お客様の情報がどんどんデータとして溜まっていきますから、AIで自動的にレコメンドしてくことも出来るのではないかと思います。
――今回、東京都のスタートアップ支援事業に参加してみていかがでしょうか?
白井:アイデアややりたいことについては、弊社も話し合いの中で様々な意見を出せたなと思っているのですが、それを一歩踏み込んだ形で具体的に実現したソニックス様の技術力に本当に感謝しています。具体的に動き出してから、プロトタイプを作っての実証実験まですごいスピードで作ってくださったので、感動しました。
新規事業を考える際、基本的には課題を探してそれにアプローチをするのですが、ソニックスさんは新しいサービスで社会を良くしたいという理念を持っていらっしゃるので、最初から同じ目線でお話出来たこともありがたいです。
折口:ありがとうございます。弊社では、お客様と伴走しながらモビリティ領域の課題にアプローチして、アイデア段階から開発まで一貫してソリューションのご支援をさせていただくことが多いです。伴走型・提案型のアプローチはうちの強みのひとつです。
今後は事業として、資金提供をいただかなくても日本交通様に貢献出来るサービスを作っていかなくてはいけないなと考えています。今回は観光タクシーのお話ですが、一般のタクシーでも他のモビリティでも、この便利なサービスを波及出来る可能性はあるだろうなと感じています。現在、地域観光向け二次交通課題解消ソフトウェアサービスを自社プロダクトとして提供しているのですが、そのサービスにもつながる部分があるだろうなと。
白井:実際に外国人観光客の皆様に使っていただくということをミニマムの目標にしていますが、その後は折口さんがおっしゃったように様々なモビリティに利用出来ると思っていて、この技術を使いたい企業さんはたくさんいらっしゃると僕は確信しています。
まずは、日本一の観光タクシーが面白くて魅力的なプロダクトを発表することで、世界一の観光タクシーになっていただきたいですし、ソニックス様にも最高の観光アプリを作っていただきたい。おもてなしの精神が体現された観光タクシーを実現して、東京をモビリティ観光の聖地にしたい。そんな世界を夢見ています。

(ライター 中村 梢)
【本プロジェクト参加企業】
日本交通株式会社について https://www.nihon-kotsu.co.jp
創業97年(1928年創業)、グループ売上高で日本最大のハイヤー・タクシー会社です。約10,000台のタクシー・ハイヤー(運行管理請負車両、業務提携会社を含む) が、東京・大阪を中心に各地の公共交通を支えています。独自の社内資格・キャリアパス制度などの人材育成を通じて、「拾うではなく、選ばれるタクシー」として、Japan Hospitality を合言葉に顧客満足を追求しています。
株式会社ソニックスについて https://www.sonix.asia/
ソニックスは、「ソフトウェアで生活者とモノをつなぐ」というパーパスのもと、移動DXとまちづくりDXの二軸で事業を展開しています。大手タクシー会社向けの配車アプリやサイクリスト向けアプリ、車両管理システムなどモビリティ分野での実績を中心に、観光や福祉介護、ヘルスケア分野においても多様な開発経験がございます。最新技術を駆使してデジタル社会の推進を支援し、誰もが快適に移動できるスマートモビリティ社会の実現を目指します。
Tokyo NEXT 5G Boosters Projectについて https://next-5g-boosters.metro.tokyo.lg.jp/
東京都が実施する、都内スタートアップ企業が5Gをはじめとした次世代通信技術を活用した新たなビジネスやイノベーションを創出し、都民のQOL(Quality of life)向上に寄与する有益なサービスを創出とともに、企業価値向上を目指すプロジェクト。
フォースタートアップス株式会社について https://www.forstartups.com/
フォースタートアップスは、「(共に)進化の中心へ」というミッションを掲げ、「for Startups」というビジョンのもと、国内有力VCとの連携による起業支援や、スタートアップ企業の組織構築を含めた人材支援を中核に、戦略的資金支援も行うハイブリッドキャピタルとして成長産業支援事業を展開。また、成長産業領域に特化した情報プラットフォーム「STARTUP DB」を中心とした産官学共創モデルによるスタートアップエコシステム構築にも取り組んでいます。