「愛だろ、愛っ」、そんなセリフが聞こえてきそうな黒岡大起(Kurooka Daiki)のパワーの源は愛。クライアントや候補者様を愛し、それが周りに伝播し、増幅されて戻り、さらにパワーアップする。今でこそ、そんな素晴らしい輪の中心にいて高いパフォーマンスを上げている黒岡だが、一人殻に閉じこもり、苦しんだ時期もあった。仲間の愛に気付き、立ち直り、今や存分に巻き込み力を発揮する姿を紹介する。
「フィリピンに行って人生観が変わりました」。学生時代の経験を振り返って黒岡は言う。その頃の黒岡は、千葉から八王子へ往復5時間の遠距離通学の毎日。ふと気づくと、電車に乗りあわせる社会人が皆、死んだ目をしているように見えた。「こんな社会人にならないために行動しなければ」と思って一念発起し、フィリピンサークルに入会。現地を訪ねた。
フィリピンのスラム街で、黒岡は、日本では考えられないような貧困にありながら、「奨学金をもらって大学に行って、仕事をして家族を幸せにする」と話す小学生の女の子のキラキラした目に魅了された。「どんな環境でも人は希望を持てば、目が輝くのだと思いました」。今も、当時の情景が目に浮かぶ。
帰国後、黒岡は日本にもあのような目をした人がいないかと探した。インターンで行ったとあるスタートアップ企業で、その目を見つけた。「自分の足で立ち、何者にも頼らず自分たちで会社をつくっている。起業家のすごい挑戦心に、強さを感じました。通学の電車で見る人とは違い、自分の“人生の主人公は自分だ”という強烈な意志が伝わってくるのです」と、黒岡は振り返る。
ちなみにその輝く目の持ち主は、今は、IPOを果たした某スタートアップの幹部だ。黒岡の当時のインターン先とは別の会社だが、今なおスタートアップの世界で挑戦を続けている。後にフォースタートアップス(以下、フォースタ)を知るきっかけにもなる人物で、黒岡は恩師と慕う。
そうこうしているうちに就活シーズンを迎えていた。輝く目をした人を増やすにはどうしたらいいか。恩師のような、自分の人生の主人公として活き活きと生きる人を増やすには。そう考えた黒岡は、就職先に某大手人材紹介会社を選んだ。人材紹介は、仕事を通じて人の人生を変えられる仕事だと思ったのだ。
黒岡はその会社で活躍した。社員800人超のなかで3位、事業部MVP等の実績を上げるなど、たびたび表彰もされた。だが当時、表彰や目の前の数字を上げることよりも注力していたのは、とあるスタートアップ企業(ここではA社とする)の支援だった。そこには、当時の上長、教育担当の教えが有ると言う。「常にお客様を見なさい。お客様を一番に考えていれば、お客様が自分について来てくれる」その考えを今も黒岡は大事にしている。
黒岡の会社は大手らしく、対企業、対個人ともに効率的・効果的に成果を上げるシステムやフローが確立していたが、意外にも、仕事の進め方はかなり個人の裁量に任せる懐の深さもあった。黒岡は、インターン経験からスタートアップで働くほうが楽しいと信じており、スタートアップに絞って独自に新規クライアントを開拓。そのなかで見つけたA社を徹底的に支援した。
「A社はスポーツ用のスマートウォッチを作っている会社です。素晴らしいIoTの技術を持ち、スポーツの世界では知られています。プロダクトも素晴らしいし、何より楽しそうに働く社員の姿が素敵でした。惚れこんで支援して、社員10人の会社は30人に。半分以上の十数人が僕からの紹介で入りました。経営者の方と一緒にその会社をつくった経験は、僕にとって大きな出来事でした」(黒岡)
このような経験をもっと積みたかったが、大手人材紹介会社のメインストリームはやはり、大口顧客の大規模求人を効率的・効果的にしっかり決めること。次第に周りとの価値観の違いを感じるようになった。「僕は『この経営者・チームを応援したいから』というピュアな思いで取り組みたかったんです。でも、それをやる仲間はいませんでした」。その会社が悪いのではなく、シンプルにそこはそういう場所ではなかった。ではどこならできるか。
見つけたのがフォースタだった。SNSで、インターン時代の恩師が事業説明のためにフォースタを訪ねる姿を見て、ここだと直感した。掲げているバリューも心に刺さった。「名前からして『スタートアップのために』で、バリューはStartups First、Be a Talent、The Team。愛する企業のために、自分らしさを活かして貢献する。仲間とともに。これぞ、自分が求めている環境だと思いました」。黒岡は、ためらいなく代表の志水雄一郎に直メッセージした。志水もその心意気に応え、話を聞きにくるようにと返信した。
選考は順調に進み、フォースタへ。ところが、同じ志の仲間を求めて転職したはずなのに、最初は周りに心を開けなかった。黒岡は語る「それまで、周りと思いを共有することなく1人で動いていたので、それが染みついてしまっていたんです。弱さを見せると叩かれるのではないかという思いが抜けず、ずっとオフィスで誰ともしゃべれませんでした」と。その状態は延々と3カ月も続いた。
その間、企業の支援もままならなかった。というのもフォースタのタレントエージェンシー(TA)は対企業、対個人の双方の役割が協力しあわないとできない(そこが人材紹介とは似て非なるところだ)。周りを積極的に巻き込み、巻き込まれることで成果が生まれ、それができなければ自ずと成果は出ない。黒岡は成果を出せない自分に嫌気がさし、人知れず涙をこぼすこともあった。その殻を打ち破ってくれたのは、やはり仲間だった。
まずは上司の仁木。毎日、休憩時間などに、隣にさりげなくいてくれて、業務への同席を促すなど絶妙な距離で寄り添ってくれた。「その人がいなければ、今自分はフォースタにいないかもしれない」と黒岡は話す。閉ざしていた黒岡の心の壁を壊してくれたのだ。
もう1つ、象徴的な出来事があった。あるヒューマンキャピタリストが黒岡の担当企業に候補者を推薦し、内定が出たにも関わらず辞退になったのだ。黒岡はその企業を愛し、周りには心を閉ざしながらも真剣に向き合っていた。「そのとき、そのヒューマンキャピタリストの彼が泣いて。そんなに悔しかったんだと思う一方で、こんなふうに一緒に思ってくれている人がいることに気づきました。お客様を愛する気持ちを共有できるんだと体感でき、一緒にやっていこうと思いました」。
見回せばキラキラと輝く目をした大人がたくさんいる。心を開き、ともにクライアントや候補者様を愛せる人ばかりだった。この件をきっかけに、黒岡はドミノがくずれるようにみんなに心を開いていく。黒岡のスタートアップ愛が、仲間愛がダダ漏れになるのに時間はかからなかった。
「フォースタはすごい。愛が伝播するんです。僕がこのスタートアップ好きだ、好きだと言っていたら共鳴してくれるんです」と勢いこんで話す黒岡。もはや少し前の心を閉ざしていた姿は想像できない。担当企業を愛し、その魅力を社内で叫べば聞きつけた人が共鳴し、支援につながり、そのスタートアップの成長を加速させる。そんな素敵な輪に気づいた。かといって意識してやっているのではない。挑戦している起業家や企業に出会い、そのビジョンや人の可能性を信じる姿を見ると愛さずにいられないのだ。
担当しているうちの1社は、候補者への対応など人を大切にする姿が素敵な企業だが、当初、フォースタ内ではそれほど注力されていなかった。しかし、黒岡が魅力を発見・発信し、自ら3人支援したところ、いつしかほかのみんなも協力してくれて、半年間で計10名の支援を実現した。その会社は成長に向かって力強く歩んでいる。一人ではできないことが、仲間がいればできると実感する毎日だ。
愛は社外へも広がる。支援した候補者が入社した先で活躍すれば、その会社との信頼関係はより強固になり、仲間意識のような気持ちも芽生える。黒岡がシニアヒューマンキャピタリストに昇格した際には、担当企業の人事担当者がTwitterでお祝いをつぶやいてくれた。黒岡は、スタートアップバスケ会なるものも企画し、起業家やスタートアップで活躍してる方々が参加した。ちなみに勝敗への本気度もすごい。「みんな絶対勝つという意志が強すぎて、挑戦者とはこういうものかと思うんです」と笑う。このように黒岡の巻き込み力は、すごいことになっている。
「スタートアップ村全体に波が伝わっていくようです。この影響範囲をどれだけ広げていけるか、人生を賭けてやることだと思っています」と黒岡。愛が伝播することは、輝く目を持った人が増えることにつながる。フィリピンで、インターン先で出会った輝く目。フォースタに来てしばし自分を見失ったが、今は周りにあふれる輝く目に気付き、自分の働きかけでそれを増やすことができると知っている。
自分が事業成長に貢献したと心から思えるスタートアップをいくつも生み出す。そして輝く目を持つ人を1人でも多く増やす。それが昔も今も変わらぬ目標だ。仲間がいるから、もう愛を見失うことはない。